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■ HIRO COLUMN 文:広河 隆一
The Day
 
Posted: 6/24/2002

 【東京 23 日】

 今日、東京都写真美術館に行って「The Day マグナムが撮った NY 9/11」を見てきました。

 マグナムというのはロバート・キャパたちが創設した写真通信社です。

 ちょっと失望しました。なぜなのか写真を見て回りながら、自問しました。

 あの大事件を撮影した著名な写真家たちの、この展覧会からは、メッセージとして「人間の悲しみ」が、あまり伝わってきません。

 何枚か、とても印象に残る写真はありました。呆然と立ちすくむ人々の姿には、心をゆさぶられました。でも写真展の全体としては、理不尽な死への怒りや激しい悲しみが、表現されていません。少なくとも私にはそう感じられました。数千人もの「人間の死」が伝わってこないのです。

 写真展の最初に並ぶ写真は、在りし日のツインタワーです。ほとんどは、機能美を誇示する写真たちで、アメリカのシンボルとしての役割が表現されていますが、人間たちのにおいや存在感が、あまり感じられません。

 後半に並ぶ写真は、星条旗のある風景です。「われわれの側に立つのか、それともテロリストの側に立つのか」と迫るアメリカの国家の主張が聞こえてきそうです。

 私は岩波新書『パレスチナ 新版』の中で、次のように書きました。

 「ユダヤ人が歴史上、凄まじい迫害を受けたことを否定する人はいない。しかしそこからどのような教訓を引き出すかが問題だ。ユダヤ人を救わなければならないということが、ユダヤ人だけを救わなければならないということであってはならないのは当然である。…… (アイヒマンは) 人間に対する、ではなく、ユダヤ人に対する罪を犯したとして裁かれたのだということを、多くの人が指摘している。そのような考え方は、ユダヤ人を救うためには、他者の犠牲はかえりみない、という考えに陥る可能性をはらむ。

 たとえば核爆弾の洗礼を受けた経験を持つ日本人が、人間に対する核爆弾の使用、ではなく、単に日本人に対して核爆弾が用いられたという理由だけで核に反対するとする。こうした考えはいつか、日本が核爆弾を他人に用いることを容認する危険性をもつにちがいない」

 これと同じことが、アメリカにも、あてはまるのではないでしょうか。アフガニスタンの 3,000 人を超える死者への悼みが、アメリカ国内から生じてこなかったのは、そのせいです。

 素晴らしい歴史を誇る通信社、マグナムの写真展も、このからくりにとりこまれています。そして「人間への打撃」としてではなく、「アメリカへの打撃」として、この事件を表現することになりました。

 アフガニスタンの人々の死に思いをいたらせることもなく、星条旗の写真で締めくくられる、薄い写真展になっています。

 「人間の死」への喪失感が「アメリカのシンボルの死」への喪失感に、「人間へのテロ」が「アメリカへのテロ」にすりかわっていくのを見る思いです。それこそテロリストの論理です。彼らは「アメリカのシンボルへのテロ」を目的としてこの暴挙を行いました。しかしそれにさらされた人間は、これを「人間へのテロ」としてとらえなければいけません。そのように考えれば、アフガニスタンの人々への死を見過ごすなどということができるはずはありません。同じ「人間の死」なのですから。

 だから私がこの写真展から「人間の死の悲しみ」をあまり感じなかったのは、そうしたところに原因があるのではないかと、思いました。

 写真展を見ながら、「記憶されない人間の死」と、「記憶される人間の死」があると感じました。ニューヨークにおけるテロリストによる死と、アフガンでアメリカの空爆によってほぼ同数死んでいく人々の死には、そうした遠い距離があり、価値の差があります。それは国家によって悼まれる死と、世界中から無視され、肉親だけによって葬られる死の距離でもあるでしょう。

 「マグナムが撮った NY 9/11」が、どの視点から写真を撮って展示しているのか、期待するところが大きかったのですが、それはアメリカの政府が行う写真展と変わるところがないように思えました。

 私は「マグナムが撮ったアフガニスタン」を見たいと思いました。

 昨日は東京情報大学で 9 月 11 日とメディアの問題を考える講演会があり、それはとても示唆に富んだものでした。そこで私も話をしましたが、この時に紹介しました『アメリカはアフガニスタンで何人の人々を殺したのか!?』というショッキングなタイトルの小冊子は、下記ウェブサイトで求められます。

 これはアメリカの学者のまとめた報告が中心になっているものです。

アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名運動
http://www.jca.apc.org/stopUSwar/

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