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■ HIRO COLUMN 文:広河 隆一
戦争と平和の距離
 
Posted: 3/1/2002

 【エルサレム 2 月 28 日】

 今日、イスラエル軍がナブルスのバラタ難民キャンプに突入しました。死傷者数百人がでている模様です。

 検問所での女性の自爆攻撃に始まるパレスチナ側の大攻勢に対して、シャロンはとうとう軍を難民キャンプに突入させたのです。そして今、エルサレム郊外のユダヤ人入植地ギロと、谷をへだてたベイト・ジャラ (ベツレヘムの隣) の間で激しい戦闘が続いています。ベイト・ジャラに入ろうとしましたが、イスラエル軍に完全に封鎖されて入れませんでした。

 昨日の閣議でシャロンが「ゴムリーム・ハエニヤン (この問題を終わらせるんだ) !」と何度も机を叩いて言っていたのは、この難民キャンプの占領をさしていたのか、この先にもっと恐ろしい事態が準備されているのか分かりません。

 カランディアの検問所にも行きましたが、車の通過は禁止され、人々は離れたところに荷物をおいて、服の下に爆弾を抱えていないか見せてから、イスラエル兵に近付いて、身分証を示すことになります。イスラエル兵は自爆攻撃を恐れて、コンクリートの壁の後ろから対応しています。そしてほとんどのパレスチナ人は通過できず、追い返されるのです。赤ん坊を抱えた女性が、疲労しきった様子で、検問所を離れていきました。

 エルサレムへ通じる道でも、1 台 1 台、車を調べるのですが、昨日までは兵士が行なっていたのが、今日は特別なセキュリティが行なっています。2 時間かかってようやく 30 メートル移動できる始末です。

 でもこれは、イスラエルに占領者としての「資格」がないことを示しています。イスラエルは占領地に検問所をおいても危険だし、検問所がなければもっと危険だし、どうしたらいいのかわからず、袋小路に追い込まれているのです。占領が今、激しい形で崩壊し始めています。

 そして、追い込まれたシャロンがとったのが、難民キャンプへの突入でした。

 これに対してパレスチナ側は、必ずすさまじい返答をするでしょう。その先シャロンに何が残されているのか。

 サウジアラビアの皇太子の和平提案に対して、イスラエルの 36% の人々が賛成を表明しています。すべての占領地を返しても、平和が必要と考える人々です。

 パレスチナ人の、たたみかけるような過酷な自爆攻撃によって、思いもかけなかったことが起こり始めています。戦争と平和の間の距離は、今きしみながら、縮まってきたのです。

 私は昔、講談社から「破断層」という、地質学をテーマにした小説を出しました。地層には断層破砕帯と呼ばれる部分があり、そこではものすごい圧力で地盤がぶつかり、地層がぐしゃぐしゃに砕かれています。トンネル工事の難所で、死者が多く出る所です。

 状況は今、劇的な展開を遂げるかもしれませんが、このイスラエルとパレスチナの破砕帯を平和の方に通り抜けるには大変な犠牲がでるかもしれません。

 そしてこのすさまじく激しいパレスチナ人の戦いを「テロ」と呼ぶのではなく、「独立戦争」と呼ぶ日が、いつか来るかもしれません。

 私は明日から、何日かコラムを書く余裕が出来ないかも知れませんが、ここまでは書いておきたくて、今コラムを送ります。

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